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新客殿・施薬殿建立記②

第2章:決断から一転、覚悟の白紙…反発

そしていよいよ着工…地元業者との最終打ち合わせの段階でした。これでひと安心…そう思う住職の心の片隅に本当にこれでいいのか?という部分が顔を出し始めました。その心を支持するように周囲からも様々な声が挙がり始めました。
 

「この改築で今後どれくらい維持できるのか?」
「新築という選択肢はないのか?」
「その場しのぎの判断ではないか?」
 

工事はそこまで迫っていました。何の説得力もない若い住職に出来ること。「胸張れる計画と信念を保ち決行すること、今ならまだ間に合う」そのことを胸に各方面に走り、意見を求め研究しました。もちろん単独行動でした。
 

・5,000万円の改築…基礎部の補修がなく、今後に様々な不安を残す。
・8,000万円の新築…宮大工による盤石な新築。
         しかし旧建物の解体や他の整備費で、一億円を越える予算が必要。

 
改築が5,000万円で新築が2億円以上ならあきらめもつきますが、この差額での決断…新築なら1,000年以上建ち続ける技術が投入される。でもその部分の理解とこれまでの建物に対する愛着、そして何より一度はご無理を言った「寄付」の追加をお願いしなければならない。それも前回以上額をお願いするのです。それはそれは蜂の巣を突いたような状況が容易に想像されました。
 
決断は数日に迫っていました。どうすべきか…そんな時、後押しして下さるご意見も寄せられました。反対されても「命までとられまい」こんな開き直りで「改築計画の白紙」を決断しました。想像通り、いや想像以上の反発でした。その反面「子や孫や、その後に続く子孫に胸の張れる建物のを」と立ち上がって下さる人々も出てきました。こうなったら自分の名誉とかの次元じゃなく、ただただ「ご本尊」「ご先祖」「寺」の重要性を説いていこう…「仏さまだけを見つめて現実を説いていこう」と決心しました。
 

第3章:宮大工の手で

宮大工による新築の素晴しさ…これは誰もが認める技術であり誇りであると確信し、日夜説明をしました。しかし現実には厳しい意見が続出しました。
 

「宮大工は高いから普通の大工仕事でいいのではないか?」
「田舎寺にそこまでの建物が必要か?」
「鉄筋コンクリートで(葬儀会館のような)今にあった物を検討すべき」

 
すべてにそれなりの筋があり、現代に於ける「寺院の必要性」には大きな大きな個人差があります。この個人差こそが、信仰の浅深です。住職を任された時、この部分をより深きものにしようと高野山の「本山布教師」を目指しました。しかし、全ての人々の意識を変えるのは並大抵のことではなく、ましてや寄付という多額のお金が掛かる問題の壁は想像を超える高く厚く不動なものでした。
 
平成12年、そんな向かい風の日々に「追い風」が吹き始めました。それはこれまでに住職が行なってきた様々な行事に参加して下さった方々の声でした。特に隔週で続けてきた『こうぞうじ寺子屋』の保護者の方々から
 

「本物の建物で」
「この子供達のまた子供も使える空間を」

 
とのお声を頂戴しました。また、時を同じくしてNHKの人気番組『プロジェクトX』に奈良・薬師寺金堂建立をテーマにした内容が放送されました。ゼロからの出発…こんな副題に釘付けにされました。私が「高蔵寺を頼むのはこの人しかいない」と心を決めていた棟梁・小川三夫さんが出演されていました。学生時代、この方の講演を拝聴し感動したものです。この番組のおかげで「この人に頼みたい」この気持ちが周囲からも沸き上がってきました。小細工不要、ただ正直に進むべし…いつしか逆風すら追い風に芯をずらさぬ信念が住職だけでなく、檀家の皆さんにも芽生え始めました。